不妊治療を始める前に

更新日:5月21日


【本文の要約】
命の誕生がミラクルです。現段階、医学上で既知のことが一二割程度です。
妊活って何をすべきでしょうか?不妊症の定義は何でしょうか?どんな検査をすべきでしょうか?治療法は何がありますか?妊治療を始める前にまずは不妊に対する基礎知識として、不妊の原因を知っておきましょう。


不妊症とは

不妊症とは生殖年齢の健康な男女が妊娠を希望し、一定期間に避妊せず性交を行っているにもかかわらず、妊娠の成立を見ない場合をいいます。この一定期間を、日本産婦人科学会が目安で、1年として定義しています。

不妊原因の割合

不妊の原因を特定しにくいことではありますが、大まかに、女性側の原因、男性側の原因、両方の原因、原因不明で分けることができます。WHOが不妊のカップルを対象に行ったレポートによると、以下が原因の割合となります。



女性側の原因

1. 排卵因子
正常生理周期が25日~38日であり、これより短い又は長い場合、月経が来ない場合や、ホルモンバランスにより卵胞が育たなかったり、排卵が行っていなかったりすることがあり得ます。
原因になりうる疾患:FSH分泌低下、黄体機能不全、PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)、AMH低下、甲状腺疾患等が挙げられます。
検査方法:生理周期中の血液検査が主で、超音波で卵胞の発育観察が補助として行われます。
治療法:ホルモン類の薬による干渉で、卵胞の発育、及び排卵を促すことが主な治療法とされています。

2. 卵管因子
卵管は、卵巣と子宮を結ぶ細いパイプで、精子がここで卵子を迎え、受精した卵が再び子宮に戻ります。卵管の炎症等によって詰まったり細くなったりする場合、精子が卵子に到達できず受精が起こりません。
原因になりうる疾患:卵管閉鎖、卵管狭窄という疾患が列挙できます。
検査方法:卵管造影、卵管通水検査
クラミジア感染症にかかったことがある方(感染症による卵管因子)、また、強い月経痛がある女性(子宮内膜症による卵管因子)は、卵管因子による不妊症の疑いがあるため、該当検査を病院で勧められることが多いです。
治療法:卵管鏡下卵管形成術FT、通水検査(軽度の場合)、クラミジア感染症も同時に治療(クラミジア感染症による卵管因子の場合)、または体外受精。

3. 子宮因子
子宮は受精卵が着床し赤ちゃんになるまで育っていく場所です。子宮の形や罹患される疾患により、子宮内膜の血流が悪かったり、子宮内に過去の手術や炎症による癒着などがあると、受精卵の着床や子宮内で育つことを防げ、妊娠に至りません。
原因となりうる疾患:子宮畸形、子宮粘膜下筋腫、筋層内子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、子宮内膜症等が挙げられます。
検査方法:子宮鏡検査
治療法:着床を防げる子宮筋腫やポリープがある場合手術によって取り除きます。

4. 頸管因子
子宮頸管は膣と子宮をつないでいる部分です。排卵期が近づくと、頸管に粘液が満たされ、精子が貫通しやすい状態になります。粘液が少なかったり、粘り強かったり(頸管粘液異常)、また精子を異物だとみなし精子の侵入を阻止する抗体を作ってしまう(抗精子抗体)ことで、妊娠できない状態になってしまうことがあります。
原因となりうる疾患:頸管粘液異常、抗精子抗体
検査:性交渉翌日抗精子抗体テスト
治療法:人工授精または体外受精

5. 免疫因子・不育症
妊娠はするものの流産や死産を繰り返して、生児を得ることができない病態を通常不育症といいます。 一般的に、反復流産(既往流産2回の場合)や習慣流産(3回以上)の歴がある方には、不育症検査を行うことを先生からアドバイスをされます。とは言え、不育症は様々な複雑なリスク因子が考えられ、中には偶発性・リスク因子不明は半数以上があります。別テーマで、「不育症のトピックス」にて詳細を解説します。

男性側の原因

男性側の不妊原因は、生殖細胞形成過程で分類する場合、造精機能障害、副性器障害、精路通過障害、機能不全が挙げられます。また、精液検査結果で分類する場合には、精液検査評価指標に未達(乏精子症、精子無力症、奇形精子症)、無精子症、精子細胞生成能不全、射精能不全が挙げられます。


1. 造精機能障害
男性に見られる不妊原因の9割も造精機能障害であるといわれています。精液検査結果、精子の数が少ない(乏精子症)、精子の運動率が低い(精子無力症)、正常形態の精子が少ない(奇形精子症)場合、ほとんどの方は造精機能に何等かのトラブルがあって、元気で正常な形の精子を作られにくい状態だと考えられます。
精索静脈瘤で精巣内の温度が高くなっていると、精子の数や運動性が低下します。また、副性器(睾丸、前立腺、精嚢等の臓器)が炎症を起こすと精子の運動率が低下したり、精子の形が悪かったりと問題が起こることがあります。


2. 精路通過障害
精巣内で精子が作られていますが、精子が体外に出るまでの通り道は障害があり、閉鎖性無精子症(精液中に全く精子が認められない状態)や乏精子症(精液中の精子数が基準に満たない)を引き起こしている状態です。


3. 機能不全
勃起障害(ED)、膣内射精障害など、セックスで射精できないものをいいます。一般的にはストレスや精神的なプレッシャーなどが原因と考えられていますが、糖尿病、高血圧、肥満、喫煙、睡眠時無呼吸症候群等の要因もあります。

男性不妊の形成要因と対応する治療法:
先天性造精機能障害(クラインフェルター症候群)、精路通過障害、精索静脈瘤、副性器障害等フィジカル問題の影響以外に、形成原因が特定できないことがほとんどで、日常生活のストレスや生活習慣も造精機能を低下させる要因になりえます。


男性不妊の形成要因は様々ではありますが、検査方法が割とシンプルです。
検査方法:精液検査(基礎検査)、DFI検査(DNA断片化精密検査)

精液検査基準(WHO Ver.6 2021年)


原因不明

既知の検査を全部行っても原因がわからないこともあります。これは、原因がないわけではなく、現時点の医療限界で既知の検査で明らかにできない原因が潜んでいます。

1. 妊娠する過程での障害
原因不明の不妊で考えられる原因の一つは、妊娠するまでの過程で、何らかの障害があるため妊娠が出来ないということです。既存の医療では、人工授精や体外受精によって、妊娠までの過程を補助し妊娠をサポートします。一方、体外受精は受精卵の形成と初期成長(胚盤胞)プロセスまでのサポートで、胚移植後の着床、育成、生児までのプロセスに関しては、現時点の医療では未知の領域になります。

2. 卵子或いは精子の質の低下
もう一つの原因は、加齢により、卵子或いは精子の質(正常に受精し育つ機能が備わっていること)が低下していることです。2011年の日本のART登録データによると、胚移植あたりの生産率は24歳以下では30%であることに対して、45歳以上になると2%と年齢の上昇とともに生産率も下がっていることがわかります(詳細年齢別は下図)。一方、米国疾病予防管理センターのデータによると若年女性からの提供卵子を用いた場合、年齢の上昇とは無関係に高い生産率が得られることが報告されています。つまり、加齢による妊娠率の低下の主な原因が「卵の質の低下」であることを示唆しています。しかし加齢による「卵子の質の低下」の詳細なメカニズムはまだ不明であり、加齢に伴う不妊症に対して有効な治療はまだないのが現状です。



提供(ドナー)卵子と自身の卵子を用いた生殖補助医療による治療成績
一般社団法人 日本生殖医学会 http://www.jsrm.or.jp/public/funinsho_qa24.html



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