体外受精を正しく理解しましょう

更新日:5月21日

体外受精は、不妊治療の最終ステップとして頼りになると、考える方が多いでしょう。しかしながら、体外受精を何回も行い、成果に結びつかず苦労をされているお話もよく聞きます。体外受精までステップアップしたにもかかわらず成果に繋がらない場合、この後どのように治療を続けたらよいか、悩んでいる方も少なくありません。


今回のTopicsでは、上記のようなお悩みに直接答えることができませんが、体外受精を今一度正しく理解し、再度不妊治療に臨むことにお役に立てればと思います。

不妊治療のクリニックの名前には、よくARTという言葉がついております。このARTは、Assisted Reproductive Technologyの略称で、つまり「生殖補助医療技術」の意味になります。「補助」という言葉に注目すると、妊娠をサポートすることだと理解していいでしょう。要するに、母側(卵子)と父側(精子)を元にする前提で、医療技術でプロセスをサポートすることになります。

「生殖補助医療技術」は、体外受精(IVF)、顕微授精法(ICSI)、胚移植(ET)、ヒト卵子・胚の凍結保存ならびに凍結胚移植等の技術に対する総称です。また、体外受精と顕微授精は受精方法の違いであり、採卵プロセスや受精後の培養、胚凍結保存・胚移植のプロセスにはほとんど違いがありません。

下図は、体外受精・顕微授精、胚凍結保存、胚移植のステップ、および各ステップで可視化される問題をリストアップしました。これらのステップと、自然妊娠の場合とを比較してみれば、解決できる「不妊の問題点」がわかりやすくなります。




まず、体外受精の排卵誘発~受精培養までのステップと自然妊娠と比較してを見てみます。

生理周期が規則正しい(25日~38日)場合、個人差がありますが、生理周期10日~16日前後に排卵日を迎え、通常1周期1個、排卵をします。市販の排卵日予測検査薬を使って、排卵日の測定ができます。ただ、排卵日予測検査薬は、黄体形成ホルモン(LH)の波動状況を図るもので、排卵前に黄体ホルモンの分泌量が急増する原理を利用して排卵日を予測しています。LHサージから約40時間以内に排卵が起こるといわれている一方、LHサージがあったとしても、排出された卵子は成熟でいい卵の保証にはなりません(未熟卵、変異卵等ではない)。また仮に排出された卵子が成熟卵で排卵日も予測ができ、時間通りにタイミングを取った場合、母体の「ブラックボックス」内、卵子と精子がうまく出会って結合(受精)されたことや、さらにその後うまく分割して胚盤胞まで成長されたことが保証できません。

体外受精・顕微授精が、この部分が可視化され、無排卵・排卵タイミング不明・卵子状態不確実、受精不確実、成長状態不確実等の問題を解決できます。

しかし、残念ながら採卵結果は以下の状況になり、「また次の周期に来てください」と、病院の先生に言われた経験があった方は少なくないでしょう。
・未熟卵で、成熟まで培養(IVM)して受精するかまたは廃棄か、又、IVMを行っても必ず成熟できない場合
・変異卵だったので廃棄した場合
・異常受精(2匹の精子が1個の卵子に入ってしまった、又は受精後1PN又は3PN)の場合
・分割停止、または発育が遅い(4日目なのにまだ4分割とか)場合
・胚盤胞のグレードが低い、胚盤胞になるまでかかる日が長い場合

次には、胚移植~9週の壁までのステップと自然妊娠の場合も比較してみましょう。

生理周期は規則正しい(25日~38日)場合、排卵日の5~8日前後、受精卵が子宮に戻って着床します。LHサージから排卵までの40時間(2日間弱)、プラス着床日で考えると、実際のバッファーが2日~5日前後もあり、4週0日の日を把握することが難しく、前回の生理からおおよその日しか推測できません。一方、胚移植する場合、移植日からしっかり4週0日を把握し、スケジュール通りの成長を見込めない場合、早めに処置の判断(あきらめるタイミング)することができます。

ちなみに、別の文章でも紹介しましたが、9週の壁に乗り越えられない9割のケースが受精卵側の問題(移植した時点に肉眼でわからない成長停止が発生とか、染色体の異常があるとか)だといわれています。受精卵の染色体異常があるかを調査するため、さらに着床前診断(PGS、PGT-A)の技術もあります。PGS技術が30年前の技術で決して新しいものではありませんが、発見当初から賛否両論があるため、今日まで臨床応用をされることが躊躇されている状態です。PGS技術自身も独自の制限を持っているため、否定の意見を持つ先生たちは、主に以下にリスクを考慮するためです。

・検体細胞を採取することによる胚盤胞本体へのダメージのリスクがある
・検体細胞が受精卵の「一部の細胞」のため、結果が異常なしだとしても受精卵全体の染色体異常がないという保証ができない(偽陰性)。一方、逆に偽陽性によって正常受精卵を廃棄してしまうリスクもある
・検査するため(検体細胞を採取のため)には必ず胚盤胞まで培養する必要があり、初期胚(Day3)の移植ができなくなる
・異数性胚ばかりの場合は、なかなか移植に進めず、患者様に精神的にダメージを与えてします

以下まとめると、
・現段階では、生殖補助医療技術で解決できる問題と解決できない問題があります。
・生殖補助医療技術で解決できるのは「一部問題の可視化」で、無排卵・排卵タイミング不明・卵子状態不確実、受精不確実、成長状態不確実、受精卵の成長可能性(PGT-Aで染色体異常がないか)を可視化することによって、妊娠確率が低い要因を排除することにより、妊娠確率を高くさせることをサポートします。
・生殖補助医療技術で解決できないのは、卵子や精子の質が低いことによる受精卵の質の低下問題や受精卵の染色体異常問題です。

自然妊娠でも体外受精でも、まず体の基礎を整えることが重要です。体外受精に頼るという固定概念を捨てて、体外受精を開始する前にも、母側は質がいい卵子、父側は質がいい精子を用意できる環境、またいい受精卵を迎える母体側のいい環境(いい内膜、いい子宮環境)を作っておきましょう!

しかし、スケジュール通りの成長が見込めないことが分かったとしても、現段階の医療技術上で、何か手段を取って取り戻そうとかできるわけではありません。








閲覧数:7回0件のコメント

最新記事

すべて表示

着床前スクリーニング(PGS)は何でしょうか? 着床前スクリーニング(Preimplantation Genetic Screening; PGS)とは、体外受精により得られた胚盤胞の一部を生検し染色体の数を検査することです。 体外受精(IVF)・顕微授精(ICSI)で受精卵を胚盤胞まで培養後、顕微鏡下で胚盤胞のTE細胞の一部を検体として採取します。採取した検体に対して、NGS技術(Next Ge

【本文の要約】 命の誕生がミラクルです。現段階、医学上で既知のことが一二割程度です。 妊活って何をすべきでしょうか?不妊症の定義は何でしょうか?どんな検査をすべきでしょうか?治療法は何がありますか?妊治療を始める前にまずは不妊に対する基礎知識として、不妊の原因を知っておきましょう。 不妊症とは 不妊症とは生殖年齢の健康な男女が妊娠を希望し、一定期間に避妊せず性交を行っているにもかかわらず、妊娠の成

今回、妊娠成立の三大キーファクターの視点で説明します。 自然妊娠の場合、精子と卵子の出会いから赤ちゃんの出産までのプロセスが、母体という「ブラックボックス」の中で完成され、プロセス全体をブレークダウンしてみることが難しいです。 一方、体外受精では、妊娠というプロセス全体の一部を体外で行うことにより、全体プロセスを少し分解してみることができます。 体外受精は大きく採卵周期と移植周期を分けることができ