妊娠成立の三大キーファクタ

更新日:5月21日

今回、妊娠成立の三大キーファクターの視点で説明します。

自然妊娠の場合、精子と卵子の出会いから赤ちゃんの出産までのプロセスが、母体という「ブラックボックス」の中で完成され、プロセス全体をブレークダウンしてみることが難しいです。

一方、体外受精では、妊娠というプロセス全体の一部を体外で行うことにより、全体プロセスを少し分解してみることができます。

体外受精は大きく採卵周期と移植周期を分けることができます。採卵周期にて、いい受精卵を作れたことをゴールとして終了します。一方、移植周期では、子宮内膜を整えた上で受精卵を移植し、母体で生児まで育つことをゴールにしています。要するに、いい受精卵、受精卵を受けられる内膜、受精卵を生児まで育てられる母体が、妊娠成立の三大キーファクタであると言えます。

第一、いい受精卵

いい受精卵は2つの意味合いを持っております。

一つは外観上でグレードがいい受精卵(形、成長度合い、内側と外側の細胞数等)、一般的には6AA、5AAの胚盤胞はグレードが高い胚盤胞です。「今回の受精卵はXXXグレード」とか、培養士から伝えられますので、体外受精の経験者はなじみのある言葉だと思います。

もう一つの意味は、「染色体が正常である受精卵(染色体23ペア)」の意味合いもあります。これは観察上でわからないことで、着床前診断(PGT-A)という受精卵に対する精密検査を行う必要があります。現在、着床前診断(PGT-A)が不妊治療において有意性があるか、アメリカでも結論が出されておらず、日本では限られたクリニック(共同パイロット研究対象クリニック)や限られた患者(反復流産、グレードのいい受精卵を移植しても反復不着床又は成長停止)のみに対して行われており、一般患者にはなじみがない言葉です。

受精直後、受精卵には卵子原核、精子原核が存在し、母側と父側の染色体それぞれ23ペアを持って、計46ペアの染色体が存在します。その後、減数分裂をしながら胚盤胞まで成長します(細胞分割しながら、母側と父側の染色体をコピーし、46ペアから23ペアへ減少するプロセス)。

受精卵の染色体異常がこのプロセスの中で発生します。また、染色体正常である母親、父親でも、染色体異常の受精卵を作ります。受精卵の染色体異常を発生するメカニズムが現在まだ完全に解明されていませんが、加齢による卵子(主)や精子のエネルギー不足によるものだと推測されています。

尚、いいグレードの受精卵を移植したにも関わらずの不着床、化学妊娠(化学流産)、妊娠成立後に9週の壁を乗り越えられないなどの場合、9割以上が受精卵に問題(染色体異常)があるといわれています。


受精卵の成長






第二、受精卵を受けられる内膜

通常移植周期の場合、子宮内膜の厚さで移植の合格基準に満たしているかを判定します。(一般的、生理周期12日目に超音波検査を行って、子宮内膜が目安8mm以上の厚さあれば、移植準備に迎えます。)

一方、超音波「目視」でわかる内膜の厚さ以外に、子宮内膜の受精卵受入時期(「着床ウィンドウ(Implantation Window)」)、内膜の慢性炎症、並びに子宮内の細菌叢がバランス等、「目視」でできない要素も大きく影響されます。

グレードがいい受精卵を移植して、着床しないことが繰り返す患者には、医師から子宮内膜検査を推奨されることがあります。

子宮内膜検査
1. 子宮内膜着床能(ERA)検査:個人差がある着床ウィンドウを調査
2. 子宮内膜組織検査:慢性子宮内膜炎があるかを調査
3. 子宮内細菌培養検査:細菌叢がバランスいい状態になっているかを調査


第三、受精卵を生児まで成長させることができる母体(母体免疫システム)

最後に重要かつ難しい母体免疫のキーファクターについてお話します。

わかりやすく解説しますと、受精卵も胎児も母体に対して「異物」となります。通常、「異物」を排除させようとするのは人体免疫システムの機能となります。そうすると、「妊娠」ということ自体がそもそも存在しないはずですが、不妊・不育症の疾患にかからない方は普通に妊娠、出産をされています。それは母体の免疫システムが受精卵、胎児を異物として認識をしていないからです。

その反対に、自己免疫システムが通常より強く、受精卵・胎児を異物として排除させようと働く場合があります。自己免疫力が強く、ウィルス等を排除する力が他人より強いことは悪いことではありませんので、普段の生活には影響がありません。ただ妊娠中には、自己免疫システムが働きすぎると妊娠の継続が難しくなります。これは母体の「自己免疫異常」といいますが、発生するメカニズムがまだ解明できていません。

免疫異常以外には、血液凝固系異常の場合、血液が固まりやすくなり、受精卵に血液供給が不足し、着床不全や不育症が発生する原因になるとも推測されます。

反復着床不全、反復流産を発生する方には、先生から凝固系異常や自己免疫異常の調査を進められると思います。検査方法は血液検査となりますが、主な検査項目は以下になります。

・抗核抗体 ・LA-DRVVT ・APTT ・抗CL抗体IgM ・抗CL抗体IgG ・プロテインSおよびC 活性 ・第12因⼦ ・抗CLβ2GP1抗体 ・Th1細胞/Th2細胞

まとめ

いい受精卵、受精卵を受入れ、いい子宮内膜、受精卵を生児まで成長させることができる母体が、妊娠成立の三大キーファクタとなります。

いいグレードの受精卵を移植したにも関わらずの不着床、化学妊娠・化学流産、妊娠成立後に9週の壁を乗り越えられない場合、この三大キーファクタのどれか問題になっていると思っていいですが、この中で「受精卵の問題(グレードや染色体異常)」が9割の原因となっています。

子宮内膜の状態、母体の免疫状態が残りの1割を占めています。反復着床不全・不育症を疑う場合、関連検査を視野に入れて検討したほうがいいでしょう。









閲覧数:0回0件のコメント

最新記事

すべて表示

着床前スクリーニング(PGS)は何でしょうか? 着床前スクリーニング(Preimplantation Genetic Screening; PGS)とは、体外受精により得られた胚盤胞の一部を生検し染色体の数を検査することです。 体外受精(IVF)・顕微授精(ICSI)で受精卵を胚盤胞まで培養後、顕微鏡下で胚盤胞のTE細胞の一部を検体として採取します。採取した検体に対して、NGS技術(Next Ge

【本文の要約】 命の誕生がミラクルです。現段階、医学上で既知のことが一二割程度です。 妊活って何をすべきでしょうか?不妊症の定義は何でしょうか?どんな検査をすべきでしょうか?治療法は何がありますか?妊治療を始める前にまずは不妊に対する基礎知識として、不妊の原因を知っておきましょう。 不妊症とは 不妊症とは生殖年齢の健康な男女が妊娠を希望し、一定期間に避妊せず性交を行っているにもかかわらず、妊娠の成

体外受精は、不妊治療の最終ステップとして頼りになると、考える方が多いでしょう。しかしながら、体外受精を何回も行い、成果に結びつかず苦労をされているお話もよく聞きます。体外受精までステップアップしたにもかかわらず成果に繋がらない場合、この後どのように治療を続けたらよいか、悩んでいる方も少なくありません。 今回のTopicsでは、上記のようなお悩みに直接答えることができませんが、体外受精を今一度正しく